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荷台に居た涼ちゃんが飛び降りると、嫌な緊張が走った。けれど、涼ちゃんは、運転席に置きっぱなしだった伝票の束を持ってそれを店に置くと、そのまま、北斗君の前を通り過ぎて通りを渡っておばあちゃんの家に向かって歩き出した。
「……涼ちゃん」
反射的に涼ちゃんを追って、通りの真ん中で腕を掴む。汗ばんで濡れた筋肉質の黒い腕。
「触んな!」
涼ちゃんは私の手を乱暴に振り払う。その時、通りかかった軽トラが、私たちに向けてクラクションを鳴らした。こんなところで立ち止まっている私たちの方が完全に悪い。それなのに、
「っるせーな!」
人のよさそうな、農作業帰りの軽トラの運転手に向かって大声で怒鳴った。ここまで機嫌の悪い涼ちゃんを、私は見たことがなかった。
突然の大声に委縮する私のブラウスの背中を掴んで渡り切る。引きずられるようにしておばあちゃん家にたどり着くと、ようやく私は解放された。
「……疲れてんだよ、こっちは」
玄関の引き戸に手をかけたまま、涼ちゃんがぼそっとそう言った。
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