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私の知らない誰かと一緒にいた涼ちゃんが、突然、大人びて見えた。涼ちゃんも誰かの前では男の顔をするんだ、と、バカみたいだけど、軽いショックを受けた。
私が心に受けた衝撃は小さな亀裂を生み、徐々に広がってゆく。思いがけない痛みにうろたえるばかりの私。
軽くシャワーを浴びて来て、普段と変わらない様子でそうめんをすする涼ちゃんは、お昼のテレビに映る若手芸人の貧弱な身体を晒した、つまらない裸芸を見て笑う余裕すらあるというのに、私にはない。
「この人のどこがおもしろいの?ただ脱いだだけじゃん。全然おもしろくない」
「おもしろいなんて言ってねえよ」
「だって笑ったじゃん」
「笑ってねえよ」
「笑ったよ……バカみたい」
口いっぱいにそうめんを入れたまま、動きを止めた涼ちゃんがじっと私を見る。何か言いたげだ。けれど、目を合わせてしまったら最後。自分の意思に反して理不尽なことを上げ連ねて涼ちゃんを責めてしまいそうな気がして、私は席を立った。
「すぐ食うから待ってろよ。怒んなよ」
眉間にしわを寄せて、涼ちゃんが箸を持ったまま私の腕を掴んで無理やり座らせる。そうじゃないのに。
空気の読めない若手芸人なんて、大っ嫌いだ。
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