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3 他力本願
夏休みとはいっても、平日であることには海の町も変わりはなくて、働く人の音を聞きながら、自分だけ夏を満喫するなんて、心苦しくてとてもできない。夏を謳歌しているのはセミばかり。
仕方なく、私は、カバンに入れっぱなしだった英語のテキストを片付けている。
『どのくらい送れば良いの?洋服は』
無事だという連絡を受けたお母さんは、もごもごとはっきりしない私の先回りをしてそう言った。しばらくここに居たいと思っていることなんかお見通しなのだ。
こっぴどく叱られでもしたら、テキストなんか広げずに、タオルケットにでもくるまって睡眠を貪ってしまうところだけど。それじゃ、フェアじゃないような気がする。だからって、急に勤勉にはなれないんだけど、広げたからにはやってみるこの几帳面さ。
なのに、すぐにめげてグミばかり食べる私。なんだか、胸やけがする。くそ真面目なまぬけとはよく言ったものだ。
『早く帰って来ないかな……涼ちゃん』
それでも、何とかお昼までに宿題の範囲だったページ数もクリアして、おばあちゃんの茹でた少し柔らかめのそうめんをすする。
「涼ちゃんの分は?帰って来ないの?」
そうめんが思いがけず美味しくて、ちょっと涼ちゃんの存在を忘れてしまっていて、はっとする私。
「良いのよ、また茹でるから。大抵、お昼には一度、帰ってくるんだけど、今日は遅いわね」
「お腹、空かないのかな」
ガラスの器の中で、溶けかけて小さくなった氷がぶつかって、軽やかな音がする。
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