他力本願

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「そうそう、これからおちびちゃんたちが来るからね」 「おちびちゃん?」 診療所だったスペースを和室に改装して、少し前からおばあちゃんが書道教室を始めたことを思い出す。 「夏休みも開けてるの?」 「夏休みだからって子もいるのよ。学校の宿題なんかも持ってきてやってる子もいるし」 「書道教室を越えてるね、もはや寺子屋じゃん」 「教えはしないわよ。もう面倒だもの。ただノート広げてるのを眺めてるだけ。それでも子供はやるのよ。今のお母さんは忙しいからね。黙って横に座るだけなんて余裕は、なかなか作れないのかもしれないわね」  一時を過ぎたころから、ぱらぱらと小学生が集まってきた。一年生とか、二年生とか、本当に小さな子供ばかりで、私は、久しぶりに小学校低学年というものを間近で見た気がする。 五、六人ほどの小さな生き物が、所せましと駆け回り、男子はふざけて女子はキレる。そんな騒がしい中で、ひとりのおとなしい男の子の手を支えて、おばあちゃんは、何食わぬ顔でゆっくりとお手本をなぞらせている。 「そうそう、ここで一度しっかりと止めてから、力を抜いて行くのよ、ね」  ドアを閉めてそっと二階の部屋に戻る。そして、しばらくすると、部屋の中は静かになって、下の物音はほとんど気にならなくなった。
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