0人が本棚に入れています
本棚に追加
「藍?どこか行くの?」
おばあちゃんが私に気付くと、一斉に小さな視線もこちらに向けられてたじろいでしまう。
「あ……うん、おじさんに顔出してこようかなって……涼ちゃん、遅いし」
「あら、まだ帰ってないの?……そう、行ってらっしゃい。和之君によろしく言ってね」
「うん」
そっとドアを閉めると、聞こえてくる、拙い疑問質問の嵐。
「あの人だれ」
「先生の子供?」
「孫よ。先生の娘の娘」
「なんでいるの」
何でいるのかなあ。お姉さんにも良く分からないよ。
砂を払ったローファーの中に素足を突っ込む。靴下なしは辛い。靴下だけでもコンビニで買えばよかった……って言ってもコンビニに行くだけでも足がいる。歩くことしか知らない、私の無能な足を玄関で無意味にぶらぶらとさせながらつぶやく。
「早く帰って来ないかな……涼ちゃん」
縁石を飛び越えて、通りを渡って倉田酒店の前に立つ。店先は何も変わっていない。錆びた看板の角すら、懐かしい。
最初のコメントを投稿しよう!