0人が本棚に入れています
本棚に追加
お店の前で何気なくお父さんが撮った、私と涼ちゃんのモノトーンのツーショット。
叱られた後で不機嫌な様子で足を投げ出して座っている涼ちゃんと、将来はアイドルになると信じて疑わなかったまだ無垢な私が、満面の笑みでポーズを決めている。今でもそれはうちのマンションの玄関に飾られていて、お父さんが写真にハマるきっかけにもなった一枚だ。
『涼平君はイケメンって程でもないんだけど、なんだかとてもいい表情をするんだよなあ……』
お風呂上がりに缶ビールを片手に、自分の撮った写真を眺めながらの自画自賛。ちょっと失礼なことを言うな、とは思ったものの、大きくなった私は、お父さんの言っていたことが今なら少しわかる気がする。
首を曲げる角度だったり、投げ出す足の力の抜き加減だとか、そういうちょっとしたことなんだと思うけど、涼ちゃんは一瞬、ひとをどきりとさせるような、憂いを帯びた表情をすることがある。
『まあ、俺には藍たんしか見えないんだけどな』
酔っぱらうと、今でもすぐに小さいころの呼び方をするけれど、本当に気持ち悪い。お父さんとは仲の良い方だとは思うけど、本当に、まじで、それだけはやめて欲しい。
アイスケースを覗き込みながら、ぼんやりとそんなことを考えていると、背後から声をかけられた。
「店の人、居ません?」
肩に大きな荷物をかけた、ガタイの良い黒縁メガネの見慣れない男性が立っていた。ブルー系のチェックのシャツにチノパン。ノートパソコンを脇に抱えて、スニーカーのかかとを踏んづけたまま奥へと入って行く。愛想の良い方には見えない。
「母さん、お客さん!」
最初のコメントを投稿しよう!