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冗談ぽく、涼ちゃんは笑いながらそう言ったけれど、それこそ涼ちゃんの精いっぱいだということ。もう私にはわかる。だから私は、真に受けたふりをして、涼ちゃんを困らせるのだ。
「本当に?本当に良いの?」
それなのに涼ちゃんは、もうすでに腹をくくってしまったのか、私をじっと見つめたまま頷いた。
「何度繰り返すんだよ、さよならを。もう耐えらんねえよ」
半分笑っているところに、真実味が増す。きっとこれは冗談なんかではない。
「涼ちゃん……」
「返したくない」
短く、はっきりと涼ちゃんがそう言った。揺らいでいた気持ちが固まった涼ちゃんの瞳は強かった。
「お前の事が、物心ついた時からずっと好きだった。どうせ東京に帰るんだからって、望んでも手に入らないって思ってた。でも俺は、お前がそばに居れば幸せになれる。手放して腐るのはもう嫌だ。だからもう、さよならはしない」
駅のホームで不貞腐れていた、涼ちゃんの顔が思い浮かんだ。どことなく不機嫌で、その理由が不明瞭で、大人は気難しい子供で片付けていたけれど、それは、繊細で寂しがり屋の裏返し。それがこの人なのだ。
「……そうだね。さよならは……もうやだね」
頷いて、私を抱き寄せた涼ちゃんの手が、寝癖だらけの髪を優しく撫でてくる。
「今日は俺が送って行く。そこで、おじさんとおばさんに話すから」
「……配達は?」
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