『人間性なき科学』『理念なき政治』そして『献身なき信仰』

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 コウタは確信した。もう一度、サラと話をしなければならない。彼女を止めなくてはならない。誰の手も借りず、自分の手で。 ★  コウタはウェアラブル端末をシャットダウンすると、後ろを振り返り、尾行がないことを確認する。スラム街の路地を抜け、サラのアパートに向かった。  扉の鍵は開いていたが、部屋に彼女の姿はなかった。その時、テーブルの上に置かれた黒い電話機がけたたましく鳴り響く。 「あなたに出会えてよかった。きっと最終的には全ての罪が償われることにつながるから。あの時、コウタが本を拾ってくれなかったら、こうはならなかった」  受話器の向こうから聞こえるのはサラの声。 「僕がきっかけを作ってしまったのか」  あの時、本を拾わなければ、サラは罪を重ねる必要はなかったのかもしれない。もしそうなのだとしたら、全てのきっかけは自分自身にある。コウタはそう思わずにはいられなかった。 「違うわ。そうじゃない。だから自分を責めないで」 「君は何者なんだ?」 「旧アザニア共和国国王チャンドラ・エマーソンの第一王女、サラ・エマーソン」 「全て……、君がやったこと、なのか?」 「私はイデオロギーを具現化する装置に過ぎない。主体なき意志という点では、あなたたちの『ミソラ』や『エンフォーサー』と同じかもしれない」     
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