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消滅した街、旧アザニア共和国に目を付けたのが、日系企業、田邊重工株式会社だった。汎用型人工知能を搭載したエンフォーサー、そして政治的意思決定支援システム『ミソラ』の試験稼働に、適度に人口が密集したこの無政府地帯を選んだのだ。
「ふふ。ごめんなさい、あなたを責めるつもりはないのよ」
うつむくコウタに、サラはそう言ってかすかに笑う。
「人の意志決定には合理性が欠けるんだ」
窓の外にストロナペスの夜景が揺れている。
「合理性?」
「人の意志決定には常に恣意性が紛れ込む。だからこそ、政策決定には『ミソラ』が大きな力になる」
「あなたも、向こう側の人間ね」
「この国をより良くしたいと願う気持ちは君たちと同じだと、そう思っている。実際、エンフォーサーが導入されてから、この国の治安は数年前とは比べ物にならないほど改善しているはずなんだ」
「あなたは何者?」
「国家情報調整委員公安部の刑事だよ」
「公安の刑事さん。あなたにはお似合いの仕事ね。もう帰っていいわ。昨日のことは気にしていないから」
「不快にさせてしまってすまない。でもこの国を豊かにしたい、俺はそう思っている」
サラは微かな笑みを浮かべると「そうね」とだけ言ってコウタを玄関まで見送った。コウタが扉を閉めようとしたとき、「ねえ、あなたに大切な人はいる?」とサラが問いかける。
「ああ、大事な友人がね。彼とは長い付き合いなんだ。きっとこれからも……。サラ、また会えるかな?」
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