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『良心なき快楽』と『道徳なき商業』
地上に出たメトロは、荒廃したアザニアの中心地を駆け抜けていく。長瀬コウタの向かいには、一人の女性が座っていた。彼女はいつもこの時間、同じ車両に乗っている。銀色のショートボブに青い瞳をした彼女の肌は白い。やがて列車は終着駅のホームに滑り込む。減速する車内に慣性の力が働き、彼女の手に握られていた一冊の本が床に落ちた。
列車が停車すると、彼女は本を落としたことに気づかずホームに降りてしまった。コウタは床に落ちている灰色の表紙の本を手に取り彼女を追いかける。
「あの、この本」
ずしりと重たい本の表紙には、アザニア語でタイトルが書かれていたが、コウタには良く理解できなかった。
「大事な本をありがとう。私はサラ。御礼をしたいのだけど……」
「いや、そんな。たいしたことじゃない」
「それくらい意味のある本よ。私にとってもあなたにとっても」
「僕にとって?」
「ええ、きっと。そうあってほしいと願うのは、私のわがままかしら? あなたの名前は?」
「僕は長瀬……いや、コウタでいい」
「コウタ、不思議な名前ね。よかったら少し遅めの夕食でも一緒にどうかしら。もちろん、おごるわよ」
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