『人間性なき科学』『理念なき政治』そして『献身なき信仰』

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『人間性なき科学』『理念なき政治』そして『献身なき信仰』

「至近距離でAK-47を乱射ですよ。犯人は屋上からロープを伝って、窓をから侵入ですね。これは素人にはできない仕事です」  第一発見者である地元自警団の男はそう言った。   「チャン・スングン、国家情報調整委員会執行部所属。彼は旧アザニア共和国が崩壊した直後からこの国に住んでいる」  スティーブはウェアラブル端末からチャン・スングンの個人データを照会している。 「あまり評判の良い男ではありませんでした。中央政府の消滅を良いことに、やりたい放題だったんです。彼が連れてきた中国系マフィアが、スラム東部を実効支配していました。それにも関わらず、治安維持に貢献があったとして国家情報調整委初期メンバーに抜擢されているんです」  発見されたチャン・スングンはデスクにうつ伏せるようにして死亡していた。デスクにはチャンの血液で描かれたであろう『労働なき富』の文字。 「中国政府としても、この国に利権を残しておきたかったのだろうなぁ。しかし、『労働なき富』。まさしくそれを象徴するような豪邸だが……って、おいコウタ、どこへいく」     
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