一寸先は霧

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 地図にも載らない世界の端の巨大な縦穴の中には、外界から隔離されるように濃い霧に覆われた村があった。  掟によって外の者を村に招き入れることも、村の者が外に出ることも禁止されている、閉鎖的な村。  直径三キロほどのまるい形をした村の周りには、大人の身長の何十倍もの高さの崖が無機質にただそびえ立っているのだ。  崖肌は平ではなく凹凸があるのだが、霧に覆われたそれは水気を纏い滑りやすくなっているため登ることなど不可能だった。  つまり掟があろうが、なかろうが村の外に出ようとする村人も、霧に覆われた巨大な穴に入ろうとする物好きな外の人間も基本的にはいないのだ。 「くそっ、今日もダメかあ……」  基本には例外がつきもので、村の少年バンはあふれ出す好奇心に突き動かされ、毎日のように崖をよじ登ろうと挑んでいるのだった。  今日も崖登りに挑戦したものの、結局数メートルも登れないうちに落下していたのだった。崖の足元に生える苔の上に大の字となってバンはぼやいた。  彼は寝そべったまま視線を穴の入り口の方に向けていた。  遠くを見ようとしても、腕を伸ばしただけで肘から先が見えなくなってしまう程濃い霧に包まれている穴の底では、入り口に視線を向けたところで何かが見えるわけではなかった。  だからこそバンは想像もつかない外の世界にこの上なく憧れてしまうのだ。
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