降ってきた少女

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 瞼を閉じ身体を少し休めようとしたその時、尖った耳の先端に空気の振動を感じ取った。  バンは急いで体を起こし、振動の出どころを探るように耳を立て意識を向ける。  視界が悪い霧の村では耳の先端と鼓膜を使い音でモノを見るのだ。  斜め上の方角から何かがバンに近づいているようだった。  霧を引き裂く音がどんどん大きくなってくる。 「たす……け……て……」  風の切る音とは別に誰かの声が霧に乗ってバンの耳に届く。  その声を聞いてバンはより一層音に集中する。  そしてバンは捉えた影を全身で受け止めるのだった。  勢いのついた影がぶつかった瞬間、バンに今まで味わったことのない衝撃が走った。  その勢いのままバンの身体は後方に弾き飛ばされ、抱えるようにした影と一緒にそのまま数メートル転がった。 「いってぇ……」  何回も転がりまわりやっと停止したバンはうめき声をあげながら、閉じた瞼をゆっくり開き腕の中のそれに顔を近づける。  彼が抱えている影はバンと同じくらいの年齢に見える少女だったのだ。 「おい、大丈夫か?」  顔に泥と苔を付着させた少女は血の気が引いて気を失っていた。  見たことのない顔だった。数百人しかいない村人の顔は基本的に把握している。  そもそも、村人だったら上方から飛んでくる訳がないし、なにより彼女は村人の特徴である尖った耳を持っていなかったのだ。
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