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「う、う……んっ」
擦れるようなうめき声を上げた少女を見てバンは安堵のため息をついた。
どうやら生きてはいるようだ。
バンが少女の頬を優しく二度叩くと、それに反応するようにゆっくりと薄目を開けた。
「きゃあっ!」
バンと目が合った彼女は悲鳴を上げ、思い切り腕を伸ばしてバンの体を追いやった。そしてその反動で自分自身が転がって霧の中へと消えていったのだった。
その様子を見たバンは思っていた以上に少女が無事だったようで安心していた。
「大丈夫?」
霧の中に消えた少女に向かってバンはなるべく優しく声を掛けるが、少女は警戒しているのか、負傷した小動物のような殺気を放っていた。
「落ち着いてよ。何もしないから」
「ここは、どこ?」
一拍置いてから質問が返ってきた。
初めてちゃんと聞く少女の声は思っていたより低く深みがあった。
「ここは霧の村って僕たちは呼んでいるよ。その村の外れだよ。君は上の方から飛んできたんだよ」
「霧の村……本当にあったんだ。確かに霧で何も見えない……。噂は本当だったんだ……」
少女はバンに話すというより小さな声で独り言のようにブツブツとそう言っていたが、霧の村の住人は耳がいいのですべて聞こえていた。
「じゃあ、あなたたちは霧人?」
「霧人っていうのが何なのかは分からないけど、僕はこの村の住人だよ。君は外の世界の人、なんだよね? 名前はなんて言うの? とにかく僕は君に危害を加えるつもりはないからその殺気を収めてくれないかな?」
「あ、ああ。ごめんなさい。私はレンフルという町から来たクトリ。魔法使いよ」
クトリと名乗った少女は殺気を抑えて答えたのだった。
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