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私は桜
私は桜。
この高台に植えられている桜の木だ。
ここ数日のぽかぽか陽気に誘われ、張り切ってつぼみを開いたのだけれど……。
どうやらまた、間違ってしまったようだ。
今朝はとても寒い。
恐らくこれから雪の季節が訪れる、そんなところだろう。
私はいつもそうだった。
同じ高台で暮らしている仲間たちは、示し合わせたかのように見事なタイミングで咲き誇り、訪れる客人を沸かせていた。
一方で私は春を満足に彩れず、足元を通り過ぎていく人々に、寂しい思いを抱いていた。
また困ったことに、私はどうにも季節を上手く読めず……。
今年のような暖冬は、花の扱いを間違ってしまうのだった。
枯れ木の中、ピンポイントに覗くピンクは思いの外目立つようで、私は春ではなく晩秋から初冬にかけて、この高台でのいい晒し者になっている。
人々は口を揃えて言った。
『季節外れの桜』と。
事実間抜け桜の私は、その蔑称に甘んじることしか出来なかった。
そして今日も、一人の少女が私の醜態を見つけ、こちらへやってきた。
丸い目を更に丸くしたかと思えば、その手に構えたカメラで、恥ずかしく咲いた花弁を興味深げにおさめている。
私は、自分が大嫌いだった。
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