#現世

2/7
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
それは15日後のことだった。 連続の完徹が祟って僕は深い眠りに包まれていた。 その時だった。 けたたましいヒューズと共にTV電話の画面が揺れ、金糸を纏ったあの女性が現れたのだ。 僕は驚きのあまり、口を開くことも出来ない。 彼女はおどおどとしてこちらを見ている。 「君は…一体何者なんだ!?」 彼女は答えない。 「この電話の使い方が分からないのかい?受話器を取ればいいんだよ!」 彼女は受話器を取った。 「わ……わらわは…中津川清隆の…むすめ……麻子…」 電波が不安定なのか、途切れ途切れにしか聴こえない。 しかし、彼女のことが分かったのは収穫だ。 「……麻子………」 それが彼女との最初の出会いだった。 何という事だろう!行方不明のTV電話が彼女のもとにあり、僕の一台と繋がっている。 そして……そして……!!それは……長い時間を隔てて、繋がっていたのだ。 「彼女は平安時代の人間だ……。」 彼女が着ていた煌びやかな衣装は、十二単という物らしい。 彼女とのコミュニケーションが始まった。 最初のうち、麻子はおずおずと受け答えするだけだったが…しばらくすると旺盛な好奇心を見せ始めた。 多分、これが本当の姿なのだろう。 彼女は本当に可愛い。 僕は、この時代のことを話してやった。彼女は目を輝かせて僕の話に聞き入った。 彼女も身近な生活のことも話してくれ、あっという間に時間が過ぎていった。 僕は、麻子が再び画面に現れる日を待った。 そして16日後、彼女と会うことができたのだ。 僕は会える日と会えない日の規則性を見つけた。 どうやら、過去と繋がるのは大潮の一日だけのようだった。 何回めかの大潮の日。 「浩太郎様……そんなに見つめられると恥ずかしいわ……」 彼女はそう言って顔を赤らめた。 「あ…いや~ハハハハハ!」 彼女と話しているとドキドキするのだ。 「平安時代の女性って、でこが広くておたふくみたいで太ってるイメージがあったけど。君は違うんだね。」 彼女はそんなイメージなどカケラも無い程に可愛い。 「私は田舎育ちだから……」 彼女が答えた。 なんだか口ごもってしまう。こういう感じってなんだろう…… 「浩太郎様。さっき、私と会うのが待ち遠しかったとおっしゃいましたね…」 彼女は言った。 「いや~その…………」 僕は赤面した。 「実は…私もです……。こんなに楽しくお話し出来る方は初めて……」 画面の君は僕を見つめる。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!