#現世

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それからというものの、大潮の日ごとの2人の密会は続いた。 彼女の言葉と現代の言葉にはギャップが存在したが、そんな事が愛の障壁にはなり得る訳がなかった。 彼女の言葉がとても難解な物に思える、なんて事は絶対に無い。 僕は古語辞典を片手に、彼女の唄う詩や和歌に耳を傾けた。 僕らは幸せだった。 「麻子……。僕はね、小・中・高と人並みの成績で卒業し、名のある企業にも就職出来た。でも足りないものが一つあったんだ。僕は今まで本当の恋をしたことがなかった。そりゃあ、幾度か女性と付き合う事もあったけどね……」 僕は自分の人生に満足している、なんて事は絶対に無い。 僕は口籠る。 「こんな気持ちになったのは初めてだよ。僕は、君が現れるのを待っていたんじゃ無いだろうか…… 彼女は口を押さえ、顔を赤らめた。 「ねえ麻子、君のことも話してくれないか?もっと君のことが知りたいんだよ。言いたく無いことは伏せていいからさ。」 彼女は一瞬困った顔をしたように見えたが、了承してくれた。
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