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「ふ〜ん、凄いサクセスストーリーだねえ。」
僕は言った。
「さく…せす……すとりぃ?」
彼女は現代語を遥か未知の言語の様に辿々しく復唱した。其れもまた可愛らしい。
「いや、出世物語って事さ。本当に凄いんだねぇ。」
僕は彼女の吸い込まれそうな瞳をじっと見た。
「麻子……も、もしよかったら………いつまでも…僕と会ってくれるかい?」
彼女は若干の間の後、上品な笑みでこう応えた。
「ええ……浩太郎様、いつまでも……」
嬉しく無い、筈が無い。
ば……万歳!!
勿論画面の中でしか会えないが、それでもいい!二次厨とかどうとかは知らないが彼女こそ、僕の求めていた女性なんだ!!
僕は笑いが止まらなかった。それはもう、同僚からも気味悪がられるほどに。
彼女が待っていると思えば仕事もバリバリ捗った。
次の大潮の日の事だ。
月明かりが眩しいくらいに煌びやかで、僕の心模様を表すかのようだった。
しかし、なかなか麻子が見えないのだ。
宮の中の景色が見えるばかりだ。
その時だ。麻子では無い何かが画面をよこぎった。
錦糸を纏ってはいるが……それは単では無く、甲冑だった。
それを皮切りに、沢山の武士行列がぞろぞろとよこぎり、膝をつけた。
中には主人だろうか、烏帽子を目深に被った貴族らしき人間もいた。
画面の外は風が強い様で短旗がなびいていた。僕の眼に映ったのは赤々とした赤色だった。
「麻子……正直に答えてくれ………。君のいる場所は何処だ…?」
麻子は何も答えない。
「あの旗……あの赤旗は………っ!?」
間弱をおいて、麻子のは口を開いた。
「此処は………屋島です……」
それは何とも弱々しい声であった。僕はその時全てを理解した。
「君は………平家の人間だね……!?」
彼女は顔を伏せる。
「そこが屋島なら……君達平家は、もうじき……壇ノ浦で滅亡する!!」
怒気とも矩形ともつかない声そう言った。
「覚悟は出来ております……」
と、彼女は答えた。
麻子は平家に仕える女官だったのだ。彼女を宮中に送ったのは五条三位俊成卿
、藤原定家の父で、『千載和歌集』の撰者であった。
そして彼女が仕えていたのは建礼門院徳子……
平家一門で、唯一生き残った女性だ。
「麻子、逃げてくれ!今ならまだ間に合う!!」
半ば懇願といった形で彼女に訴えた。
「それは出来ません…あの中には中宮様がいらっしゃいます……。あの方を置いて逃げる訳には行きません……」
彼女はどうしても逃げないと言う。
僕は焦った…。彼女を死なす訳にはいかない。
そうだ……!麻子が逃げないのなら、平家を救えばいいんだ!
歴史を変えることが出来れば、彼女は救われる!
ぼくはその方策を練った……
2月19日に源氏の奇襲がある……。
「高松の在家に火を付けて急襲するが、それに慌ててはいけない。彼らの本隊は百騎にも満たないんだ…。
君達の軍勢が押し出せば…きっと隊を率いる源義経を討てる!
彼を討てば、君達平家は救われるんだ!!」
僕はその日を待った……
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