11人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「何だって……!?し、失敗した!?」
僕は彼女の言葉が空耳である事を願う程に困憊していた。
勿論、そんな筈が無い。
「はい……もう少しで義経を討つという所迄肉迫したのですが、その時、遥か沖合いに源氏の白い旗が翻り……結局、背後を攻められる前に、軍勢は舟に引いたのです。」
その情景がありありと浮かぶ様だった。
「馬鹿な!!その船団は2日後に到着するんだぞ!!」
歴史のパラドックスに抑えることの出来ない漫然とした怒りをぶつけても何も変わりはしないのに。
「史実ではそうなっているんだ……………」
僕はひっくり返した歴史資料や史実書のページを握り締めた。
屋島を棄てた平家は彦島に移り、本陣を構えた。
壇ノ浦の合戦まで3日………麻子との交信も今日で最後かもしれない。
「浩太郎様……お諦め下さい。それが運命であるならば……何人もそれを変える事は出来ないのです……。」
彼女は逡巡が一欠片も無い目でそう言い放った。
「私には一片の悔いもございません。浩太郎様と語り合った数ヶ月……麻子は幸せでした。」
やめてくれ。そんな事を言わないでくれ……
「浩太郎様、最期に麻子がどうなるのか教えていただけますか?」
彼女は晴れ晴れとした顔でそう僕に聞いた。
「君がどうなるのか…分からない……。歴史書には、建礼門院が救われる事しか記されていないんだ……。」
救えない。これが何か悪い夢であればいいのにとさえ思う。
勿論、そんな筈が無い。
「契りおく その言の葉に 身を替へて 後の世にだに逢いみてしがな……」
彼女はそう唄った。
「……浩太郎様、約束して下さい。後の世で…麻子と会って下さいますか?」
彼女は眼下に泪を溜めてそう言った。
「あ…ああ!!いつか……いつか逢おう!!約束する!きっと逢えるよ!!」
ヒューズが飛びがちの画面にそう答えた。
「……ありがとう…浩太郎様……」
彼女が見えなくなった。
とても淡麗であった平安美人との交信は……それで終わってしまった。
TV電話は二度と映る事は無かった。
最初のコメントを投稿しよう!