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それからずっと後の事だ。
僕は会社の資料室にいた。
仕事で使う資料を探し終え、一服付けていた時のことだ。
ふ……と思い立ち、千載和歌集を手に取って眺めた。
「あっ……!」
短い感嘆符を漏らした。
其処には『契りおく その言の葉に 身を替えて 後の世にだに 逢いみてしがな』の短歌。
『読み人知らず』の表記で。
『後の世で、麻子と会って下さいますか?』
「麻子……」
それは遥か遠い時を超えた僕へのメッセージであった。
麻子は生き延び……この歌を建礼門院に託したのだ。
「時田さん♪お隣いいですか?」
うちの課の西村さんだ。
「何読んでるんですか……って和歌集ですか!?千載を読むとは時田さん、分かってますね〜」
どうやら彼女は和歌に詳しいらしい。学生時代は競技かるた部だったって言っていたかな…。
「私、短歌とか古風な文化とかってすっごい好きなんですよね〜」
一瞬彼女が平安美人に見えた気がした、なんて事は絶対に無い。はずだ。
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