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どこか演技じみた大仰な言い回しをし、テオドロスが否定をする前に、彼は去っていった。テオドロスの行き場のない感情は彼の内側を駆け巡ることしかできなかった。
恋など、自分が抱くには過ぎた感情だとテオドロスは思っていたが、言葉にしてしまえばその通りなのだろう。ただ、どれほどテオドロスが大樹を愛していたとしても、それはあくまで叶わぬ想いだった。それ以上に、叶えてはいけない想いだった。
大樹の好きだという言葉が嘘だと思ったことはなく、愛しそうに見つめる瞳はいつでも真っ直ぐテオドロスを見ていた。その手は暖かく、慈しみに満ちていたし、テオドロスが望めばずっとそれを与え続けてくれるのではないかと夢想もした。どれほどテオドロスがその手を拒んでも、警戒をしていても、大樹は変わらずテオドロスを待ち続け、大事なものとして扱っていた。
そんな彼の普通の幸せを、今食いつぶしているのは他でもない自分であることを自覚してしまう。けれど、あってはならない思いだとは言え、感情は止まらない。自分の恋心と、罪の意識とを混ぜた黒く重たいタールに沈んで息が詰まっていく。
視界が少しずつ歪んでいくのを感じ、急いで家に戻る。飛び込んだ家の中、普段大樹が使っているベッドに潜り込み、布団にくるまった。その布団からは大樹の匂いがして、少しずつテオドロスの心を落ち着けていく。精神的に揺らいだ時は、時々そうしていた。
大樹に抱きしめられているようで安心したが、恥ずかしくて大樹に伝えたことは一度もなかった。しかし、今日は逆に更にテオドロスの心を掻き立て、乱した。彼に守られている罪悪感に涙が溢れ出た。零れ落ちるそれは全て布団に染み込んでいった。
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