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ペットを飼うと婚期が遅れる、とは昔からよく言ったもので、テオドロスから見れば、大樹は休日のうちいくらかはテオドロスに割くし、夜も適度な時間に帰ってくることがほとんどだった。交友関係も狭い訳ではないだろうに、どうしているのだろうか、と常日頃から思ってはいるが、大樹に気にした様子はない。
反対に、テオドロスは交友関係という交友関係が存在していないため、大樹が家にいればかなり気は紛れるし、楽しい日々を送ることができた。名実共に、テオドロスには大樹以外の世界が存在していなかった。部屋の外の大樹のことすら、テオドロスは知らなかったことに、一本の電話で気づかされた。
「もしもし? 珍しいね、兄さんから電話なんて」
電話に出る大樹の声が、いつもと比べて随分フランクだった。口調もかなり砕けていて、しかもハイテンポだ。そんな風に話す大樹を、テオドロスは始めて知った。更に言えば、大樹に兄がいることすらこの時始めて知ったのだ。
「あぁ、うん、え? 結婚? また母さんそんなこと言ってたのか。それもこれも、全部兄さんが早々に離婚したせいだろ! 俺はそんな予定はないぞ!?」
結婚、という単語にテオドロスはどきりとした。
「あと、母さんに俺が隷獣飼ってるのは内緒にしといてくれ。ただでさえあんたが隷獣研究にかまけて離婚したと思ってるんだから!」
そうやって話している合間、大樹の視線がちらり、とテオドロスに向く。口調は変わらないまま、その目がゆるりと曲線を描いた。慈しみに満ちた目に胸が締め付けられた。ごつごつとした手が、伸びてきて、テオドロスの耳の後ろ、鈍色の毛並みをわしゃわしゃと撫でる。その心地よさに、全てを委ねてしまいたくなった。
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