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結局、思い悩んだテオドロスは、少ない知り合いの中から、一番頼りやすい人のもとへと向かった。
「大樹さんの話を聞きに、俺のところへ?」
「はい、お忙しいところ申し訳ありません」
テオドロスは深く頷いた。大樹の後輩にして、テオドロスが大樹以外に唯一頼れる人間だった。もう一人、彼の飼っている狐も大樹のことは知っているであろうが、彼は最も頼りにしたくない相手でもあった。彼の人を小馬鹿にしたようなにやにやとした笑みが頭に浮かび、その思考をシャットアウトする。
「って言われてもなぁ……」
「……少しでも多くのことを知って、大樹さんの為になることをしたいので」
そう言ってお茶を濁すと、和平は目をぱちくりとした後に苦笑した。
「まるで、恋する乙女だ。犬ってそんなもんなのかな」
「ダメ、ですか?」
和平は、眉毛をハの字に下げて、彼は頬を掻く。完全に困り顔だったが、言いにくそうに、けれどもはっきりと彼は告げた。
「……もし、恋だとしたら、と仮定するけど、隷獣と人が恋をしても、いい思いをすることはない。俺なら止める」
何かを思い起こすような顔をして、和平は頭を左右に振った。彼には、そんな経験があるのだろうか。
「飼われる側の片想いでも?」
「尚悪い。飼い続けていることで相手に期待させて今後の人生まで左右してしまいたくない」
俺ならすぐ誰かに譲る、とまで言い切られ、テオドロスは困った顔をするでもなく、ただ口元を歪めた。
「……テオ君、君がどれだけ好きか分からないけれど、もし生半可な気持ちならやめといた方がいいよ」
完全に、テオドロスが大樹に想いを寄せている前提で話が進んでいた。他にもいい相手は絶対にいるから、と和平は熱弁するが、その言葉はテオドロスの頭には欠片も入ってこない。どれほど誰に否定されようとも、説得されようとも、テオドロスの心は変わることがないのは自身が一番よく知っていた。また、皆が言うように、その想いが大樹にいい影響を与えないこともわかっていた。
「大樹さん、あの性格だろ? 愛されたがりとばっかり付き合って、散々振り回されても嫌な顔ひとつしないで、挙句にだいたい浮気とかされて捨てられてた」
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