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いい加減、幸せになって欲しい、そう言って歯噛みする姿に、テオドロスは頬を緩めた。和平が大樹のことを本当に大事に思い、そうやって悔しがってくれることに、喜びを覚えた。そして、同時に自分がその幸せの障害でしかないことも分かって、分かりきったこととはいえ心がズキリと痛んだ。
「テオ君が悪いんじゃない。大樹さんも君のことは好きだし、いつも楽しそうだ……でも……俺は、二人に茨の道を歩んで欲しくない」
叶うことのない想いだと分かっていた。叶えてはいけない想いだとも分かっていた。ただ、それを実際に大樹を大事に思う相手にきっぱりと言い切られたことによって、テオドロスの心はすっきりと整理されていった。
「俺も、大樹さんには素敵な女性と結婚して、幸せに生きて欲しいと思います。誰よりも」
テオドロスの顔には、まごう事なき笑みが浮かべられていた。和平の顔が、ほっとした顔に変わる。その笑みに、やはり自分が想いを捨てるのが一番正しいことなのだということを確信した。ある決意を胸に、テオドロスは口を開いた。
「今日のこと、大樹さんには内緒にしていてください。知ったらきっと哀しんでしまうから」
和平が真面目な顔で頷いたのを見届け、テオドロスは席を立った。和平の家を出ていこうとすると、どこからともなくアイヴィーが現れ、すれ違いざまにそっと呟いた。
「……選んでからの方が、地獄だよ」
意味ありげな言葉に振り返ると、アイヴィーが少しだけ悲しそうな顔をして尻尾を揺らしていた。それもあくまで一瞬のことで、彼はにたにたとしたいつもの笑みを浮かべて、テオドロスの首に腕を回し、耳元に唇を当てる。
「地獄で踊る相手をお探しなら、いつでも」
「思い出と踊る方がマシだ」
きっぱりと言い切れば、アイヴィーが唇を尖らせて口笛を吹く。少しだけ、彼に好感を持てた。テオドロスはふっと笑みを浮かべて、大樹のもとへと戻るための心の準備をした。
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