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家に帰れば、既に帰宅した大樹が夕飯の支度をしていた。ふわりと味噌の香りが鼻を掠める。
「おかえり、珍しいな、外出なんて」
「アイヴィーと話がしたくて」
テオドロスがそう言うと、彼は嬉しそうに笑った。交友関係を広め、誰かと仲良くなるだけで幸せそうな顔をするのか、と彼の優しさを思う。
「今日は、大樹さんが作ってくれたのか?」
机の上に並ぶ食事は、凝ったものは何一つなかったが、どれも綺麗に整っていて、美味しそうな和食だった。はらりと鰹節のかけられたほうれん草のおひたしに、てらてらと光を反射する豆の煮付け、白い豆腐が浮かんだ味噌汁、橙が鮮やかな鮭の塩焼き、真っ白なご飯。こくり、と喉が鳴る。
「たまにはいいだろ、まぁ、お前の飯には負けるけどな」
大樹はくすりと笑って力こぶを作る動作をした。彼が作ったというだけで、テオドロスにとっては大層なご馳走だった。
「あんたの飯なら何を食べても美味いよ」
自然と、言葉がもれた。嫌に素直だな、と大樹が笑う。
いつもの倍は時間をかけて彼の手料理を咀嚼した。口の中に広がる味は、じんわりと溶けてテオドロスの体の中に吸い込まれていく。そうして取り入れたものが体の一部になっていくかと思えば、何も考えられなくなるほど幸せで、テオドロスはその喜びと味を一生覚えていようと思った。そんなに美味いか、と喜ぶ大樹に頷いて、一口、また一口とゆっくりと口に運んでいった。
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