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街全体を夕日が赤く染めていた。あちこちの家からそれぞれの食卓の香りが漂ってくる。それくらいの時間帯が、テオドロスの買い物の時間だった。最初は毎日食材を買って帰っていたが、食材を加工しておくことが得意になった今、買い物にいくのは週に一、二回になっていた。どの店の何が安いかもだいたい把握し、チラシを見るのが日課になっている。そんな今、どれほど豪勢な料理が並んでいようとも、土田家の家計簿は最近黒が多い。
ブルル、と携帯が震え、両手一杯に持った買い物袋の一部を置いて中を見る。テオドロスの飼い主からの連絡だった。
「……飲み会か。なら俺の飯だけだな」
冷凍ご飯だけでいいか。そう結論付ける。飼い主の大樹にかける手間の半分もかけないテオドロスの様子を知ったら、彼は間違いなく怒るだろう。優しい人だから。
そう思いながらも、彼がいなければテオドロスの存在価値自体がないようなものだと、彼は本気で思っていた。手早く、分かったとだけメールを返して、伸びをする。一週間分の食材という大荷物に肩が凝るが、とりあえず持ち帰らないことには話にならなかった。
「あ、テオ君じゃないー」
間延びした声に顔を上げると、にやにやした笑い顔と、見知った狐耳。テオドロスは、どちらかというと苦手な部類に入る彼の顔に、少しだけ顔を強ばらせた。
「アイヴィー」
「はぁい。どーも、テオ君はお買い物―?」
薄く浮かぶ笑み。何を考えているか分からない上に、どこか人で遊ぶようなところがあるのが、どうにも苦手だった。テオドロスは距離を取るようにして一歩後ろに足を引いた。
「大樹はー? あ、仕事かー」
返事を待たずにべらべらと喋る彼に、テオドロスは黙って視線を逸らした。
「ところでー、テオ君、それどうしたの?」
トントン、と首筋を叩く仕草をするアイヴィーに、テオドロスはなんとなく首筋に指を触れた。そして、彼の言わんとしていることを数秒後に察し、かあっと頬を赤らめた。確かに最近そういう行為をしてはいたが、大樹はテオドロスのために跡を残すことなどしなかったはず、と慌てて記憶を辿る。
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