はぐれた狼の話

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 喉の奥で唸り、威圧するテオドロスに、皆人は大人しく黙った。そんな彼に視線をやり、テオドロスはふっと口元を緩めた。 「まぁいいさ……お前が俺を騙そうと、それであの人が幸せになるなら十分だ」  大樹のもとを離れて二年が経った。転がり込んだ愛護団体で過ごした中で、皆人がテオドロスに声をかけたことも、話しかけた内容も全て彼を団体に入れるために仕組まれたものだと、知るには十分な時間だった。偶然と見せかけて鉢合わせたのも。あえて大樹のことに触れたのも、全部わざとだと後に知った。皆人は大樹やテオドロスの幸せを願ういい人などではなく、腹黒く狡猾な詐欺師のような人間だった。しかし、今やそれもテオドロスにとってはどうでもいいことだった。  真実を知ったところで、テオドロスが大樹の元へと戻ることはなかった。二年の年月の中、幼さの残っていた顔もラインがシャープになった。元々よかった体格はさらによくなり、身長も伸びた。何かに怯えたような顔も、今やしっかりと前を見据えるようになっていた。ただ、そのサングラス越しに見える瞳には何の感情の色もなかった。皆人が皮肉交じりに呟く。 「……擦れてしまって」 「そうしたのはお前だろう」  無感情に呟くテオドロスは、流れる煙草の煙が、はやく自分の感覚を奪ってしまわないかと思っていた。ふと時計に目をやると、もうそこを出る時間だった。ジャケットを羽織り、ターゲットの元へと向かった。
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