はぐれた狼の話

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 今日の仕事は、暴力的な主人から飼い猫を引き剥がすことだった。 「どーも、隷獣愛護団体のものですー」  開けられた瞬間閉められそうになるドアの隙間に足を差し込む。押しつぶされた足に痛みを感じながらも、生まれたスペースに指を捩じ込む。渾身の力で、テオドロスはそのドアをこじ開けた。 「お宅の猫を譲り受けに参りました」  にたぁと口を左右に引き、犬歯をわざと覗かせながらテオドロスは笑った。それをみた相手は明らかに怯えながらも、果敢に彼を睨みつけて叫んだ。 「あれは俺の物だ! 警察呼ぶぞ!」  怯むことなく、テオドロスはその胸倉を掴んで持ち上げた。そうすると、相手はそれだけでバタバタと手足を動かして足掻いた。その手足で急所をやられないように気を付けながらも、テオドロスは足がつくかつかないかまで持ち上げる。 「結構。その前にお前の顔でも整形してやろうか?」  バキバキと、片手の骨を鳴らして凄めば、相手は小さく悲鳴をあげた。ひるんだのを見て、テオドロスは家の奥に向かって声を上げた。 「おい、猫。はやく来い。行くぞ!」  すると、しなやかな体の猫が怯えた表情をして現れた。元々美人だったのだろうが、髪の毛はバサバサだし、まくりあげられた袖から覗く腕には青痣が目立つ。 「この馬鹿野郎が! お前は俺に従ってればいいんだよ!」  釣り上げられた状態で苦しそうにしながらも、男は威圧的に叫ぶ。そんな彼を鼻で笑い、テオドロスは持ち上げたまま揺さぶった。 「この状況でよく吠える」  自分の後ろに猫が隠れたのを見届けて、男を力いっぱい家の中に放り込む。蛙が潰れたような呻き声をあげて男が床に倒れ込んだ。即座に家を出て、猫を抱き上げて走る。後ろから、男が叫ぶ声が聞こえる。
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