はぐれた狼の話

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 しばらくしたら、まず間違いなく隷獣管理課に連絡が行くだろう。現在主人を持たない野良扱いになっているであろうテオドロスは全速力で逃げる以外の道を持たなかった。万が一捕まったら一巻の終わりだ。怯えて腕の中で暴れる猫をいなし、軽く額にキスをして言う。 「俺が守ってやるから大人しくしてるんだ、子猫ちゃん」  歯の浮くような台詞を当たり前のように、気持ちも込めずに囁いた。猫はその頬をぱぁっと赤く染めて彼の首に腕を回した。持ち前の脚力と俊敏さで街を駆け抜け、団体員の集まる場所へと彼女を連れて行くのが、今日の彼の役目だった。  こんな無茶を繰り返しているため、何度も管理課に追い回された。しかし、テオドロスにとっては運が悪いことに未だ捕まらずにいた。 「ほら、着いた。管理課に探知される前にICチップどうにかするぞ」  そう言うと、猫は、途方にくれたような顔をしてテオドロスを見上げた。 「大丈夫だ、あの男のところには帰りたくないだろう?」  頷くのを確認すると、団長の部屋へと向かった。ICチップをどうこうできるのは、ここだけだった。すぐに、中から悲鳴が聞こえてきた。特殊な電磁波で、ICチップを壊すらしいが、受けたことのないテオドロスは、それがどれ程苦痛なのかを知らない。  ブランド物は大変だな、などと他人事のように思う。煙草を吸いながらテオドロスは扉の外で彼女が出てくるのを待った。テオドロスの役目は連れてくれば終わり、という訳ではなかった。ぼんやりと何も考えずに立っていると、しばらくして扉が開いた。自由になったということに実感の湧いていないことや、先ほどのショックでぼんやりしている猫が現れて、テオドロスを見た。その顔は、憔悴仕切っていた。 「部屋へ案内する」  保護した隷獣は、しばらく団体の施設で預かることになっていた。テオドロスはあらかじめ決められていた部屋へと彼女を案内し、扉を開けた。 「今日は疲れているだろう、休め。色々な説明は明日だ」  彼女は、扉の中に入り、再びどうしたらいいか分からないような顔をしてテオドロスの顔をじっと見つめていた。それは、自分でこの施設の扉を叩いた時のテオドロスと同じような反応だった。テオドロスは、あえて彼女に何も声をかけずに背を向けた。
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