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「あの……」
案の定、彼女はテオドロスに声をかけた。振り返れば、彼女は途方にくれていた。その手は小さく震え、今にも泣き出しそうですらあり、ただひたすらに哀れだった。
「……一人じゃ、怖いか?」
テオドロスは、優しい笑みを作った。殴られ慣れた彼女が怯えないように、ゆっくり視認できる場所で手を動かして彼女の頬に添えた。その動作に、猫は尻尾を揺らして喜んだ。喉を鳴らしさえしそうな彼女の様子を、テオドロスは心から哀れに思った。
「一緒にいてやろうか」
そう申し入れれば、彼女は心底安心した顔をして頷いた。幾度となくこうして中に入った部屋で、テオドロスは今日は猫を抱きしめて眠った。そうやって、相手を安心させ、個人に、そしてひいてはその団体に執着させていくのが団体の手口でもあった。
「いい子だ……」
そっとその髪を梳きながらキスをすれば、ようやく穏やかな寝息が聞こえてくる。テオドロスは暖かい塊を抱き寄せながら、どうせ数日後にはこの猫を抱くことになるのだろうと思った。そしてその数ヵ月後には、この猫の名前すら覚えていないだろう。団体に新しく入った猫、それ以上の認識はテオドロスには存在していなかった。
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