16人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、今の嘘ねー。なんだぁ、やっぱデキてたのか」
けらけらと面白そうに笑う彼に、テオドロスの頭に血が上るが、仮にも大樹の知り合い。安易に手を出す訳にもいかなかった。拳を体の脇でギュッと握りこむ。
「あーあ、いいなー、絶対大樹さん上手いだろうしなー。フリーのうちに一発ヤっとけばよかった」
「ふざけるな」
ふざけているのか、本気なのか測りかねる彼の発言に、テオドロスはギリリと奥歯を噛み、低く唸った。
「そんな人じゃないって? まー、確かに特定の相手がいるときは絶対その人以外抱かなかったみたいだし」
くすくすと笑う彼はテオドロスの様子に怯えるでもなくたじろぐでもなく、ただ彼の反応をみて面白がっていた。ポンポンと、下世話な内容の言葉がアイヴィーの綺麗な形の唇から飛び出してくる。
「顔よし、性格よし、仕事もできるし、金もある。あんないい男なら入れ食いだろうに」
思わず、テオドロスはその手を伸ばし、アイヴィーの胸ぐらを掴んだ。怒りで手が震えるのを抑え、彼を引き寄せる。
「大樹さんを、あまり馬鹿にするな」
「馬鹿に? してないよー、むしろ褒めてるじゃない」
不快極まりない笑いに、その手を離して肩を押す。アイヴィーは軽くよろめいて、なんでもなかったかのように、ぺろりと唇を舐めて艶然と微笑んだ。
「ねぇ、君は一体彼の何なの?」
「ただの、ペットだよ」
テオドロスは自分のことを、ただ飽きたら捨てられるだけのペットだと、そう思った。アイヴィーはそれを見て、一瞬だけ口を閉じ真顔になったあと、すぐに元のように口角を上げ、少しだけ眉を下げて言った。
「まぁ、がんばりなよ」
その言葉の意味を、テオドロスはまだ知らなかった。
最初のコメントを投稿しよう!