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テオドロスにとっての主人とは、例えどんな人間であろうとも従順であるべき相手だった。相手が自分のことを嫌いであろうとも、大事にしなかろうと、ただただその手足となり、尽くす相手であった。いつからそう考えていたのかも分からないくらい長い間、物心ついた頃からそう考えていた。そして、愛されなかったとしても名前を呼ばれ、たまに褒められれば十分だと思っていた。
そしてそれは、大方の隷獣に言えることなんだろうと思う。ニュースでは主人から逃げ出したり、主人を手にかけたり、という隷獣もいるが、大抵そんなことはしない。そんなことをすれば、管理課に捕まって保健所送り。テオドロスのように逃げ回れるのは稀だ。裏流通品の無印であるテオドロスであったからこそ出来たことだ。
最近有名ブランドになった清澤社製品等は、皮下にICチップが埋まっているせいで、どこにいても管理課に見つかってしまう。
そう、隷獣はあくまで愛玩動物、権利もへったくれもない。いかに主人に気に入られ、愛されるかが勝負。主人を選べないからこそ。
テオドロスは、すっと自らの刺青の入った顔を撫でた。目尻から眉間に入った流線は決してセンスがいいとはいいがたかった。一人目の主人は、自分を誇示するためのモノとしてテオドロスを扱った。当時まだそれほど一般家庭には多く普及していなかった新種のペットを持っている自分というものを示すために、自分の印を刻み、人に見せびらかした。
その頃ブランド製品は完全にハイクラスの道楽でしかなく、庶民の憧れだった。彼は新興国で違法な薬物を多く使用して、無茶な投薬実験のもと作られたような裏流通品に手を出した。現在でこそ、短命であったり凶暴化が危惧されていたり、とそういった無印品は敬遠されている。しかし、珍しい動物を元にした隷獣が安く買えたりするため、未だにそういった製品は後を絶たない。
テオドロスもそういった無印製品の一つだったが、とりあえず今のところ何らかの欠陥が見つかっていないのが救いだった。
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