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その時のテオドロスは、ただの置物で、主人のよき犬であることだけを考えていた。食べ物は与えて貰っていたが、主人が自分を見ることはなかった。刺青を入れるのは痛みを伴ったが、それで主人が褒めてくれるのならそれでよかった。だが、期待をしていた自分の頭を撫でる手は、与えられることはなかった。どれほど頑張ったところで、自分に与えられる褒美はないのだと知った。
二人目の主人には、一人目から売り飛ばされた。新しい、もっと珍しいペットを手に入れ、テオドロスは用なしになったのだ。その頃には、急速に隷獣業界を拡大した清澤社は、金持ち相手ではなく庶民向けの製品も扱っていた。ちょっと頑張れば手の届く範囲で、安全でアフターサービスもきっちりとした美しい隷獣が買えるようになっていた。主人が買ったのもまた、清澤社の製品だった。
二人目は暴力的な主人で、気に食わないことがあるとすぐテオドロスを殴った。テオドロスは、彼の気に触らないように完璧であろうと努めた。人前ではよきペットを演じ、家の中ではできる限り有能で、しかも邪魔にならない召使いを目指した。
テオドロスは彼にとっても単なる所有物で、モノでしかなかった。怒りに任せて殴られようとも、逃げようと思ったことはなかった。それが自分の主人だと受け入れていた。ただ、時々泣きそうになりながら、自分さえ有能であればいつか主人が褒めてくれるのだと思っていた。その頃は、生傷が絶えず、十分な生活も遅れていなかった。いつもお腹が空いていたし、傷の一部は化膿していたが手当もされなかった。
そんな主人は、隣人に刺されて死んだ。必死に救急車を呼んだが、助からなかった。テオドロスは、必然的に主人のいない野良犬に変わることになった。
もし、ブランド物なら、アフターサービスで一度店に戻って中古品として再度売りに出されたりもする。けれど、無印の場合、そんなサービスは勿論ついていない。管理課を通して保健所に預けられ、どうせ引き取り手もなく処分されるだけ。
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