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「……あーっ、おふくろのヤツ、油断も隙もねえっ!」
レジメンタルタイを緩め、するするっと外した将吾さんが呻いた。
「ほんとはスウェーデンでもアメリカでも二十四日の晩メシが家族とのクリスマスディナーなんだぜ。だけど、おふくろが帰国する飛行機のチケットが取れなくて帰れないって言うから、今日にしてやったのに」
ここは二階にある彼の部屋である。引っ張り込まれたのだ。
……といっても、わたしが彼の興味を引くなんてことはありえないから、二人っきりで彼の部屋にいても何の心配もない。
だからこそ、彼はわたしを自分の部屋に連れて来たのだ。今だってあたりまえのように、わたしの目の前で着替えてるし。
わたしは彼から受け取ったスーツとネクタイをハンガーに掛けてクローゼットにしまいながら、先刻教えてもらった彼の幼い頃のエピソードを思い出し、ふふふ…と黒い笑みを浮かべていた。
「な…なんだよっ、その笑いは⁉︎」
将吾さんはビームズのマルチボーダーのニットを頭から被った。下はディーゼルの黒デニムだ。わたしが要らぬことを聞いたと思って、少し焦ってる。
……グッジョブ、お義母さま。
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