すっかり悪役《ヒール》になってます

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リビングルームには大理石でアール・デコ調に彫られたマントルピースがあって、アール・ヌーヴォー風に蔦があしらわれた金網の奥では薪が赤々と()ぜっていた。 その前には、スウェーデンが世界に誇る家具量販店IKEAで毎年購入するというモミの木のクリスマスツリーがあり、色とりどりのオーナメントが飾られている。ちなみに、このモミの木は年が開けるとお店で引き取ってもらえる。 きっと、ここはパーティなどに使われる部屋であろう。大きな部屋のあちこちに腰掛けられるソファや椅子の類がある。 マントルピースの近くの一番大きなダークブラウンの革張りのソファに、将吾さんの父親と母親が座っていた。 「クリスマスケーキっていっても、私がイギリスに留学していたから、うちはイギリス風のクリスマスプディングなんだがね」 わたしたちが彼らの対面のソファに腰を下ろすと、ローテーブルの上にはドーム型の茶色いケーキがあった。 「また今年もかよ……メシを食ったあとにこれを食べるの、かなりヘビーなんだよな」 将吾さんが顔を(しか)める。 「将吾、ケンブリッジ式に火を点けてよ」 彼も父親と同じケンブリッジ大学のビジネススクールに留学していた。 「フランベするやり方に、ケンブリッジもオックスフォードもねえよ」 ぼやきながらも、将吾はケーキに火を点ける。 とたんに、青白い炎が立ち上がり、わたしだけが「わっ!?」と声を上げてしまう。 どうやら、わたし以外の人は慣れっこのようだ。 何事もなかったかのように、ハウスキーパーの静枝さんが火が消えたプディングにナイフを入れて切り分けていく。わかばさんが、それぞれの皿に取り分けていく。 その間、島村さんが紅茶のカップを乗せたトレイを持って、各人にサーブする。この香りはアールグレイだ。 クリスマスプディングは日本でいうところの「プリン」とはまったく異なり、むしろドライフルーツをふんだんに使ったパウンドケーキの食感に近い。しかも、フランベでアルコールを飛ばしたとはいえ、ブランデーがたっぷり染み込まされている。なかなか、大人の味だ。 ところで…… ……先刻(さっき)から、痛いほどの視線を、ひしひしとを感じるんですけれども。
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