同僚から政略結婚を相談されてます

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クリスマスの翌朝、なぜか副社長(就業時間中なので)の機嫌がすこぶる悪かった。 「……お呼びでしょうか?」 わたしが執務室に呼ばれて入ると、島村さんがすっと前室へ下がった。 「なぜ指輪をしていない?」 マホガニーのデスクで、副社長は書類に目を落としたまま訊いた。 「は?」 「せっかく買ってやった婚約指輪だ。婚約中はずっとつけておくもんだろ?」 ……まさか、機嫌が悪い原因って、それ? 「あんな派手な指輪、仕事ではつけられません」 ……どこかにぶつけちゃったらどうすんのよっ。 すっごく気に入ってるのにっ。 「会社に持ってきてないのか?」 「ここにあります」 わたしはブラウスの胸元からネックレスのチェーンを引き出した。トップにピヴォワンヌが輝いている。 ……わたしだって、いただいたものはちゃあんと身につけてます。 「そんなところじゃわからない。指につけろ。 ……業務命令だ」 ど…どこの世界に「婚約指輪を指につけろ」っていう業務命令があるのよっ? 「……彩乃?」 返事をしないわたしを副社長がじろり、と睨む。 仕方がない。わたしは波風を立てたくない派なのだ。ネックレスを外してエンゲージリングを引き抜くと、「貸せ」と言って副社長がわたしの左手薬指にはめてくれた。 「これで、襲撃されることもなくなるかもな」 副社長は満足げに微笑んだ。 ……襲撃? 「こっちは婚約したっていうのに、まだ『副社長が好きです!』とか言って、突撃してくる『自爆テロ』があるからな。業務遂行の邪魔だ」 ……わたしは単なる「弾除け」かっ! 「ご用件は、それだけですね」 呆れたわたしは前室の方へ(きびす)を返した。 「あ、それから、終業後は毎日プライベートルームに来てくれ」 副社長はもう書類に目を戻している。 「……毎日、ですか?」 そんなに補充するものあったっけ? 「そうだ……毎日だ」 「承知しました」 わたしは一礼して、執務室を出て前室に戻った。
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