8181人が本棚に入れています
本棚に追加
隅々まで掃き清められた玄関に入り、靴を脱ぐ。
彼のぴかぴかに光った飴色の革靴は、この国では「靴の神様」がつくったと謳われるギルド・オブ・クラフツのものだ。
「……おい、彩乃。まさか、畳の間で正座すんじゃねえだろうな?」
将吾さんが柄にもなくビビった顔をしている。
「大丈夫よ。掘り炬燵だから、足伸ばせるよ。足腰が弱ってきたおじいさまとおばあさまのために、リフォームしたから」
なんだかそんな顔を見るのがおかしくて、ふふっと笑ってしまった。
「わたしだって、正座は苦手よ。お見合いのとき、テーブル席でホッとしたもん。着物だったし」
まさか、あの日で二度と会うことがないと思った人と、生涯をともにする儀式を執り行う羽目になるとは……
「あの着物、おまえになかなか似合ってたぞ。
今日はなんで着てないんだ?」
……どの口が言うっ!?
今日はおじいさまとおばあさまも同席されるので、「清楚」にミス・アシダのアイボリーのカシュクールワンピにした。
「将吾さん、『キャバ嬢の初詣』って言ったじゃないっ!」
思わず叫ぶと、廊下の向こうまで声が飛んでいった。
「ばっ、バカかっ、おまえはっ。声がでかいんだよっ」
将吾さんが声を殺して、息だけで怒鳴る。
「おまえ、クリスマスのときにおれのおふくろにも言っただろ。あとで、すんげぇ搾られたんだぜ」
グッジョブ、お義母さま。
……あ、裕太もいたんだった。
そう思って振り向くと、わが弟はなにやら腑に落ちないとでもいうような、珍妙な顔をしていた。
「……確か、クリスマスは忙しくて会えないって言ってたよな?」
最初のコメントを投稿しよう!