一度会っただけですが、婚約します

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うちの一族はほぼ同世代だとみなしたら、名前を呼び捨てにする。 蓉子なんて、二歳上のわたしはもちろん、四歳上の双子の兄たちや婚約者の慶人や今では会社の上司になった大地でさえ呼び捨てだ。 『彩乃、婚約おめでとう』 祝ってくれているはずなのに、なぜか蓉子の声が沈んでいる。 『……って、言えるのかな?』 「なあに?どうしたの?……まさか、マリッジブルー?」 と、わざと空気の読めないことを言ってみる。 『なに言ってんの!こっちは幸せいっぱいよっ!!』 ……はいはい、ごちそうさま。 物心ついたときから大好きだった慶人と結婚できるんだもんね。 『……彩乃、ほんとにいいの? 今なら、まだ間に合うんじゃない?これから具体的に話が進んでいくと、もう戻れなくなるよ? それでなくても、両方の親の会社も絡んでるんだし』 わたしが黙っていると、いつも言いたいことはハッキリと言う蓉子が、ためらいがちに話した。 『あのね、慶人が、お相手の人と大学で同じゼミだったのね』 それはお見合いの席で、慶人の母親である清香おばさまがおっしゃっていた。 『今でもたまにゼミ仲間たちと呑みに行くらしいんだけど。彼はお坊っちゃまだけど、そういうの抜きにしてお仕事がすっごくできて、口は悪いけど気取らずざっくばらんで、おもしろい人なんだって。でも……女性関係を考えると……正直……お勧めできないって……』 そりゃ、あのステイタスで、あのルックスですもの。何番目の女でもいいからお近づきになりたい、と思う女性がわんさか寄ってくるでしょう。 蓉子には言わないけど、慶人だって、KO大の在学中から就職した頃にかけてはすごかったよ? 要領がいいから、親戚たちにはバレてないけど、親戚中にバレまくっていた彼の従兄弟(いとこ)の大地と、どっこいどっこいのことをしていたんだよ? ……だけど、慶人は結婚したら、そういう誘惑には乗らないと思う。
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