副社長の専属秘書の仕事やってます

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゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚ 「……失礼致します」 トレイにお茶とお茶菓子を乗せ、わたしは副社長の執務室に入って行った。 向かい合わせのソファにはそれぞれお客様と副社長が座っていた。わたしがお客様の方からお茶をお出ししていると…… 「……彩乃じゃないか?」 と、声がかかった。 顔を上げて、お客様を確認する。 ライトグレーのオーダーと(おぼ)しきスーツをビシッと着こなした、三十代半ばのイケメンが爽やかな笑顔でこちらを見ていた。 明治の時代、万年筆の販売をきっかけに大手の文具メーカーになった「萬年堂(まんねんどう)」の会長の次男坊の葛城(かつらぎ) 謙二(けんじ)だった。 今は自分で手がけたオフィス用品のネット通販会社「ステーショナリーネット」の社長だと聞いている。最近はオフィス用品だけじゃなくて、生活用品のネット通販も始めたらしい。 「あ……ご無沙汰しております。葛城様」 わたしは一礼した。 「よせよ。殊勝な顔して(かしこ)まるなよ。 ……昔のように『ケンちゃん』って呼べよ」 そう言って、葛城さんがお茶を手にして一口飲んだ。 視界の端に映る副社長の顔が、にわかに曇る。 お客様にはわからない程度だが、確実に不機嫌になったのが、わたしには(わか)る。 「申し訳ありません。今、勤務中ですので」 わたしはアルカイックスマイルを浮かべた。 「何年ぶりかなぁ……綺麗になったな、おまえ」 葛城さんはわたしをじーっと見つめた。 副社長がわざとらしく咳払いをした。 「……実は、この朝比奈と私は婚約をしておりまして」 「知ってますよ、富多副社長。 TOMITAの御曹司とあさひフィナンシャルの社長令嬢との結婚を知らない経済界の人間はいませんよ」 葛城さんはしれっと言った。 ……そうだ、この人は昔からこういう人だった。 「いい加減にしてよね?……ケンちゃん」
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