彼のお部屋で疑心暗鬼になってます

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将吾さんの実家で暮らすようになって、わかったことがある。 ……彼のご両親はとても仲がいい。 お義母(かあ)さまは北欧家具を輸入販売する会社の社長という役職柄、かなりの頻度で国内外問わず出張しているが、家にいるときはお義父(とう)さまとよく話をしている。 特に晩ごはんを食べたあと、ダイニングルームからリビングルームに移動して、コーヒーを飲みながら二人でいつまでもおしゃべりしている。 スウェーデンの人たちがこよなく愛するfika(フィーカ)という親しい人と過ごすコーヒータイムらしい。 ちなみにそのときのBGMは、わたしがお義母さまにプレゼントした無印のスウェーデン・トラディショナルのCDだ。かなり気に入ってくれたらしく、iTunesでスマホにも入れてヘビロテしてくれているらしい。 だが、ご両親のfikaが始まると将吾さんはわたしを連れて早々に自分の部屋に引きこもってしまう。 では、その部屋でわたしたちがお義父さまやお義母さまのように楽しく語らっているかといえば、とんでもない。 将吾さんはコンランショップの寝心地のよいベッドでノートPCを開いて仕事を始めるし、わたしはコンランショップの座り心地のよいソファでゼクシィを読んでいるしで…… ……会話をするどころか、まったく別々のことをしている。 また、改めて将吾さんを観察するようになって気づいてしまったことがある。 彼の……島村さんの妹であるわかばちゃんへの眼差しである。 わかばちゃんは、この家のハウスキーパーである母親の静枝さんをごはんのときなどにお手伝いしているのだが、彼女がお皿やグラスなどを配膳する様子などの一挙手一投足を将吾さんはいつも目を細めて見ているのである。 そして、やはり彼女には、まるで(とろ)けるような笑顔で接していた。 ちなみに、将吾さんがわたしに対してそのような笑顔を向けたことは一度もない。 その笑顔を初めて見たクリスマスのときには、この人もこんな笑顔をするんだな、くらいにしか思わなかったけれど……
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