突然の辞令で彼の会社へ出向します

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「……副社長、本日のスケジュールを申し上げます」 何事もなかったかのように、島村さんがタブレットにあるデータを読み上げようとした。 さすが「秘書の(かがみ)」! ……と、感心してる場合じゃない。 「あの……」 わたしが声を発した。しばらく黙ってたので、声がひっくり返りそうになる。 「わたし……グループ秘書でも構いませんよ? もともと、『あさひ』では秘書課付きだったんです。専属でお仕えする秘書の経験はありませんので、グループ秘書の方が会社にとってもお役に立てると思うのですが……」 実は昨日、出入りのデパート松波(まつなみ)屋の外商さんに頼んで、一週間分のスーツをコーディネイトしてもらって購入したばかりだったが仕方ない。 すると、副社長がはぁーっと、盛大なため息を吐いた。島村さんも眉間にシワを寄せて、怖いくらい堅い表情をしている。 「あ、あの……」 わたしの声を振り切るように、 「島村、しばらく外してくれないか」 副社長が言った。 「はい、承知しました」 そう言って、島村さんはすぐさま副社長室を出て行った。 わたしと副社長だけが、その部屋に残された。
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