突然の辞令で彼の会社へ出向します

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副社長室はさすがに立派な造りだった。 マホガニーの重厚なデスクや調度品、座ると沈み込みそうになる革張りのソファ、ふかふかの毛足の長い絨毯。 でも、わたしには……あぁ、落ち着かない。 副社長は、そんなわたしなんて気づくことなく、無造作に黒い革張りのソファにどかっ、と座った。 「……そんなに、おれに興味ねえのかよ?」 チャコールグレーのオーダーと思われる身体(からだ)に沿った細身のスーツを着た副社長は長い脚を組み、ムッとした顔で言った。 「見合いのときもさ、あんた、ちっともおれの方を見なかっただろ?おれがかなりキツいことを言っても、完全無視だったしな」 副社長はソファのアームに片肘をついて、苦笑した。 「……なのに、あんた、なんでおれと結婚する気になった?」 副社長は立ったままのわたしを見上げた。 「……必要とされたから」 わたしは正直に答えた。自分を必要としてくれるところなら、どこだって行く。 すると副社長は、おれは必要とした覚えはないけど?という顔をした。 「あなたに、ではなく『会社』に、です」 副社長の顔がまた、ムッとした面持ちに戻る。 すこぶる不機嫌そうだ。
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