イケメン秘書と婚約指輪を選びます

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副社長付きの秘書、といっても、島村さんというちゃんとした個人付きの秘書がいる。 なので、結局、わたしの仕事は「あさひ」にいた頃のグループ秘書でやっていたことと、何ら変わりはなかった。 「TOMITA」に出向して十日ほど経った頃、前室でPCを使って住所録の整理をしていたら、副社長から呼ばれた。 執務室に入っていくと、大きな窓を背に置かれたマホガニーの重厚なデスクの向こうの立派なチェアに、副社長は脚を組んで座っていた。 「……お呼びでしょうか?」 わたしが告げると、唐突に、副社長は不機嫌な顔で言った。 「婚約指輪を買ってきてくれ」 そりゃ、まぁ、わたしは秘書ですから? 買ってこいと言われたらお遣いはしますけど? でも、その婚約指輪、今までの経緯から推察すると…… ……あなたがわたしに渡す婚約指輪、ですよね? 「アメリカ支社でのトラブルのために、連日Web会議がある。ニューヨークとの時差のため、開かれるのは定時後だ。土日は休日出勤や取引先との接待ゴルフなどで潰れる。この冬は十二月でも暖冬だからな。誘いが多い」 副社長はデスクに頬杖をつく。 片方の手の人差し指は癇性的に何度もデスクの表面を打ちつけている。 ……そうだ、このトラブルの処理がなかなか捗らないために、彼のご機嫌は斜めにひん曲がっていたのだった。 「だが、心配するな。島村を一緒に行かせる。 この金曜日の終業後、二人で行ってきてくれ」 ……どこの世界に(たぶん)一生に一度の婚約指輪(エンゲージリング)を、ダンナになるフィアンセの部下の男性秘書と、二人っきりで買いに行く女がいるかな?
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