イケメン秘書と婚約指輪を選びます

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表示をみて、地下一階のブライダルサロンに足を向けたら、島村さんは全然違う方向へ向かっていた。 接客に来た店員さんに島村さんが「富多」と「朝比奈」の名前を告げると、すでに予約してあったのか、階上のプライベートサロンに案内された。三階と四階には個室があって、ほかの客に気兼ねすることなくゆったりと吟味できるみたいだ。 その中の一室に通された。座り心地のよさそうなソファセットに、重厚な感じのダークブラウンの調度品、ソファとカーテンの色は同じ深紅に統一されている。 二人で腰を下ろすと同時に、 「富多さま、朝比奈さま、この度はおめでとうございます」 と店員さんから頭を下げられた。 先刻(さっき)、接客した若い人とは違う、年齢も客への応対も、もっと改まった感じの女性だった。 「……いえ、私は代理で来た者です。 この方に合う婚約指輪と結婚指輪を持ってきていただけませんか」 島村さんはまるで商談相手と話すかのように、無機質に言った。 ……ま、彼にとっては「仕事」なんだけどね。 「あ、それは失礼いたしました」 店員さんが頭を下げる。 なんだか申し訳なくなって、わたしも会釈した。妙齢の男女が揃って婚約指輪を所望しに来たんだから、間違えても無理はない。 それに、普通は「代理」なんてありえない。 ちゃんと「当事者」たちが訪れるだろうよ。 「準備してまいりますが、失礼ですけど、朝比奈さまの指輪のサイズは何号くらいでいらっしゃいますか?」 「日本のサイズで七号くらいだと思います」 「畏まりました。ご用意してまいりますので、しばらくお待ちください」 そして、店員さんが席を外したのと入れ違いに別の店員さんが紅茶を持ってきてくれた。
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