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「お待たせしました」
そう言って、店員さんはベルベット地の縦長のリングホルダーをテーブルの上に置いた。
「こちらがエンゲージリングでございます」
なんだか、どれもゴージャスな四本だ。やっぱり、わたしの見た目からそう思うんだろうけど。
すると、島村さんがタブレットを持ち上げ、写真を撮った。
……あ、「証拠写真」ね。ちゃんとお店に行って指輪を選びましたよ、っていう。
一番左側の指輪が「アバ・ロンド」
メレダイヤがぐるりと一周した円の内側に大きな一粒ダイヤがあり、浮き出るように輝いている。アームにもメレダイヤがある。
その隣が「アバ・ポワール」
アバ ロンドが円だったのに対して、こちらはティアドロップの形にメレダイヤがはめ込まれている。内側の一粒ダイヤの形も定番のラウンドブリリアントカットではなく、ティアドロップのようなペアシェイプカットだ。アームにもメレダイヤがある。
さらに、その隣が「ピヴォワンヌ」
芍薬の花をモチーフにした指輪だそうだが、花びらを思わせるリボンで結んだような優美なカーブに、メレダイヤをしっかりと沿わせて埋め込ませている。中央の一粒ダイヤと相まって、指輪全体がきらきらと輝いている。しかも、アームにもメレダイヤがある。
そして、一番右側が「エターナル・グレース」
モナコの公妃でハリウッド女優だった故グレース・ケリーをイメージした指輪だそうだ。二重になったメレダイヤのアームの中央に、マーキスカットというラグビーボールのような楕円形の一粒ダイヤが輝く。さらにその一粒ダイヤの周囲にもメレダイヤが取り巻いているという、なんともゴージャスでマダムな指輪である。
わたしは、これらの指輪を一つ一つ左手薬指につけていったのだが、島村さんはその度ごとに、タブレットで写真を撮ってくれて、その後画面に向かってせわしくタップし始める。
きっと、あの副社長のことだから、Web会議で少しでも気になったことは、島村さんに確認しないと気が済まないに違いない。
本当に、島村さんには申し訳なかった。
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