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「……どれも素晴らしすぎるリングなので、本当にわたしなんかに似合うんでしょうか?
もっと、小ぶりな方が……」
ため息とともにわたしが言うと、
「そんなことありませんよ。どれも朝比奈さまのイメージにぴったりなものばかりでございます。日本の方でこのようなデザインのものをこなせる方はそうそういらっしゃらないんですよ。
ご自分の方からは客観的に見られませんから、どうぞこちらの鏡に映してお確かめください」
店員さんが卓上の鏡にわたしの手元が映るようにしてくれた。
わたしがどうにも迷ってしまうのが、どういうわけか値札が取られていて、いくらするのかわからないっていうことだ。
……どうせ恋も愛もない政略結婚だから、相手にはそんなに負担をかけたくないんだけどな。
「将吾さまは『パーティの際に使えないケチなものを買って、また違う指輪を購入しなければならない羽目には陥りたくない』『安物買いの銭失いになるくらいなら、末永く使えるゴージャスなものを今買え』とおっしゃっています」
島村さんがタブレットの指を止めずに言った。
「しかし、『それなりの年齢になればまた違った魅力のものが必要になるのは当然だから、今一番似合うと思うものを、今しかつけられないと思うものを選ぶように』とのことです」
さすが、百戦錬磨の恋愛の猛者だけある。
今まで数多く、女性にプレゼントしてきた経験値の高さをまざまざと見せつけられる。
わたしみたいな経験値の低い者が、どんな迷い方をするのかなんてあらかじめ、まるっとお見通しってわけね。
「まぁ、素敵!そして、的確なアドバイスです。
……朝比奈さま、富多さまから愛されてますね」
店員さんがうっとりして言った。
……どこがっ!?
と、思わず叫びそうになったが「富多」と「朝比奈」を背負った女がそんなことはできない。
わたしはモナリザのようなアルカイックスマイルを湛えて、なんとか抑えた。
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