Prologue

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今日のわたしは、オリーブブラウンの髪をウェーブを活かしてふんわりとアップにまとめて、菖蒲色の地に花薬玉や御所車などの吉祥文様が大胆に施された大振袖を身にまとっていた。 身長が一六八センチのわたしには、このくらい大柄の方が見映えがすると、出入りのデパートの外商から勧められて成人式のために誂えたものだ。 その後は女子大の謝恩会で着て以来しまいっぱなしだったのを、急に決まった今日のお見合いのために出してきたのだ。 落ち着いた菖蒲色は、この歳になっても違和感がなかった。 お茶とお華の師範のお免状を持っていて、着物に造詣の深い(今日は淡い藤色の訪問着をお召しである)清香おばさまに「よくお似合いよ」と褒められたくらいだ。 振袖で一日過ごすのはなんとかなるにしても、和室の畳の間で正座するのは正直イヤだな、と思っていたら、テーブル席の個室に通されたときにはホッとした。 「……彩乃」 隣の、(うぐいす)色の訪問着をまとった母親の喜和子(きわこ)から声をかけられて、我にかえる。 反対側の隣に座る父親の榮太郎(えいたろう)が咳払いした。 どうやら、また、ぼんやりしていたらしい。 ……せっかくのお料理もまったく進んでいない。
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