イケメン秘書と食事へ行きます

10/10
8128人が本棚に入れています
本棚に追加
/541ページ
わたしたちは、割烹料理屋を出た。 わたしはタクシーで家に帰り、島村さんはお土産の折詰を持ってマイバッハで会社に戻ることになった。将吾さんがまだ会社にいるためだ。 「こんな顔をして社に戻ったら『副社長』になにを言われるか」 うっすら赤くなってしまったので、困った島村さんは、手でぱたぱたとあおいだ。 どうやら、最後の最後に会った「獺祭」さんの仕業のようだ。 わたしはふふっ、と笑った。わたしの頬もほんのり赤いはず。 「将吾さまはこれ、お喜びになると思いますよ?」 島村さんが折詰を目の前まで持ち上げた。 「こんなに仕事が忙しければ、食生活も不規則になるでしょう?」 ちょっと照れくさくなって、わたしは目を伏せた。 なんとなく「罪滅ぼし」もあって頼んだものだったからだ。 「これからは、あなたが考えてあげてください」 目を上げると、島村さんが笑っていた。 とっても、やさしそうな微笑みだった。 今日はこの人のいろんな表情が見られたな、と思った。 けれど、その微笑みはなぜか…… とっても、哀しげでもあった。 とっても、切なげでもあった。 こんなふうにわたしに微笑みかける人を、わたしはほかにも知っている。 また、わたしはあいつに「会って」いた。
/541ページ

最初のコメントを投稿しよう!