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監督とここに居ない京介のことを話した 帰り際 「あいつはいい奴だぞ?」 そう呟くように言われた いい奴なのは知ってる 相手のこと一番に思いやれる奴 ずっと一緒にいた私が一番よく知っている でもそれが好きって気持ちなのか 白球だけを追いかけてきた私に 分かるはずもなく ただ一つ 関係ないと言って傷つけた京介のことを思うと胸がキリキリ痛んだ それは余りにも酷い言葉 七歳からの二人の歴史を 一瞬にして否定した言葉だったから・・ 部屋に閉じこもって ずっと京介のことを考えていた 考えても答えなんて見つかるはずもなく 母に思い切って聞いてみた 「あの・・ね?」 「なに?」 いつもの京介のことなのに 改まって話そうとすると 言葉にならない 「なに?京ちゃんのことかしら?」 母の口から出た言葉に驚き 「なんで?なんで分かんの?」 「分かるわよ!あんたのお母さんを 何年やってると思ってんの なに?やっと告白された?」 やっと? 「“やっと”って?」 「京ちゃんが茜のこと好きなのは みんな知ってるわよ 昨日だって航が気を利かせてワザと逸れたフリしたって言ってたもの それなのに落ち込んでるじゃな~い? で。どうしたの?」 「京介とは“関係ない”って言っちゃったの」 「関係ないって……あんた酷い」 呆れ顔から怒り顔に変わった 酷いことを言った自覚はある だからどうしすればいいのか・・・ 「どうすればいいと思う?」 恐る恐る聞いてみると 「京ちゃんの顔見て謝っといで」 幼稚園児じゃないのに 顔見て謝れって でも・・・酷いことを言ったのは私 肩を落としながら 京介の携帯を鳴らした 出てくれないかと心配したけれど 意外にもワンコールで出てくれた いつも二人でキャッチボールした空き地で待ち合わせると 私より先に京介が待っていた 「お前呼び出しといて待たせるって どーゆーつもりだよっ」 いつもの威勢のいい声を聞いて 少しホッとした 「ごめん」 ベンチ代わりの丸太に腰を下ろしたのはいいけれど沈黙が続く 「・・・あの、さ」 「うん」 「ごめんねっ 関係ないって言ったこと・・・ あの言葉撤回させて」 すーーっと鼻から息を吸い 一気に吐き出した 暫く無言でいた京介は視線を合わせてから口を開いた 「俺たちの二遊間は固く破られない二遊間だったろ? 関係ないなんて次言ったら許さないからな! 覚えとけよ」 言い切った後で肘で肩を突かれた 元々体格差があるのに不意打ちも重なってバランスが崩れる 「キャァ」 丸太がグラついて倒れそうになる 咄嗟に出した手を京介に引かれて そのまま腕の中に抱きしめられた 気まずい ・・・気まずい 「あの・・・離れ、て?」 「嫌だ」 抱きしめられたけれど掴まれたままの手は痛めている方で 「ちょ、と・・それ痛む肘」 「あ、ごめん大丈夫か?」 少し離れてくれたけど 一瞬の出来事に 私の心臓は口から飛び出すんじゃないかと心配するほど暴れてた 「なぁ茜、俺のこと嫌いか?」 「・・・っ」 遂にきた でも 好きか?と聞かれなくて 少しホッとした 「嫌いじゃないよ」 素直な気持ち だけど・・・好きか?と聞かれたら 分からないのが本当のところ 「俺は茜のことが大好きだ 幼稚園の小さい組さんの頃から大好きだ それはずっと変わらない」 小さい組さんって・・ 年少さんって言えよ 頭の中で突っ込む 「茜は?」 「私は・・・ 正直ソフトボールのことしか頭になくて 今まで考えたこともなかったの」 「そっか」 「うん」 「俺は茜以外考えらんねーから」 「・・・・・っ」 「付き合おうぜ!なっ?」 顔を覗き込まれ 更に俯く 「返事がないってことはOKってことだよな」 こういうところは変わらず強引 でも・・・そんな京介もアリかなって思うから それに乗っかってみようと思う 「うん」 「よっしゃー。もう遠慮しない! お前が俺を好きになるように ガンガン攻めるから覚悟しとけよ」 少し嬉しいと思ったのは 私も京介のことまんざらでもないってこと? 「帰るの明日に延ばすから 今夜デートしようぜ」 キラキラした笑顔で言うから 更に心臓が鼓動を高め 吐きそうになる 「迎えに行くから可愛くしとけよ」 照れ隠しにデコピンまでされ 長年の相棒の形が変わる予感がした
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