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馬鹿の京介の所為で フードコートに戻る勇気もなく 外のお好み焼き屋さんに入った 「私が焼くね」 ご飯しか炊けなかった私を ずっと見てきた京介は 「やっぱ女の子だな」 嬉しそうに見て笑ってる 「あんま見ないで・・」 ずっと見られると緊張する 「正面に座ってんのに横向いてたら変だろ? 俺は茜をずっと見ていたいよ」 ストレートな言葉が返ってきて 恥ずかしくて仕方ない 三枚焼いたお好み焼きのうち 二枚は京介の胃袋に収めたのに 「俺、まだお腹いっぱいじゃないぞ」 お腹を摩りながら我儘を言うから 「あのさ、本体が馬鹿だから胃袋も馬鹿だね」 嫌味も言ってみたのに全然響かなかったみたいで 「これから茜の手料理食べられるなら もっと胃袋大きくしなきゃな」 一人でクスクス笑っている 呆れながらもそんな京介と居ることが心地が良くて おばさんに京介の好きな料理を聞いてみようって思った 京介の喜ぶ顔を想像して フフッと笑った 「なんだよお前・・・今、何考えてた?」 勘の鋭い京介には誤魔化しもきかず 正直に白状する 「やったぁ~~」 大声で万歳をする始末 もちろん店内全ての視線を集めたことに 恥ずかしくて居た堪れず 支払いを手早く済ませると店を飛び出した 「馬鹿京介、いちいち声が大きいのよ! もう知らないっ」 京介を放置でスタスタ歩く 当然追いかけて来ると思ったのに 足音が聞こえてこない 恐る恐る振り返ると京介は 歩道の真ん中に立ち尽くしていた 「京介?」 何度呼んでも反応しないから 気になって戻る 「どうしたの?京介、お腹痛い?」 顔をのぞき込むと伸びてきた長い腕に捕まった 「ちょっ、なに?」 動きが読めなくて焦る 「知らないって酷いぞ! 大きな声だって仕方ないだろ? 広いグランドで呼び込みしてるんだから」 少しの言葉で凹んだり浮上したり 世話が焼ける 「さっきみたいなのは嫌なの 恥ずかしいじゃん・・・だから気をつけて」 文句を言いたい気持ちを飲み込んで これなら大丈夫かな?と折れてみる 「分かった」 すぐ浮上する京介に 本当は歩道で抱きしめられても嫌って 言いたかったのに飲み込んだ 「さぁ茜、どこ行く?」 手を繋いで歩きながら 何度も聞かれ・・・答えに困った 「分かんない」 京介が言ったように 学校と、グラウンドしか知らずに過ごしてきた 「改まって考えると普通のことってなかなか難しいな」 京介も同じ気持ち 「俺ん家来るか?」 悩んだ末の提案にコクリと頷いた また自転車に乗って 見慣れた景色を戻る 「ただいまぁ」 馬鹿の大声 「お帰り~!あら茜ちゃ~ん いらっしゃい。ちょっと大変身? めちゃ可愛いんだけど〜」 玄関に出迎え早々、早口のおばさんに頭を下げた 「どけよ上がれねーだろ?」 相変わらずの京介 「ごめんね。さぁさぁ上がって キッタナイ部屋だけど~~」 「お邪魔しま~す」 京介の後について部屋に入ると 選手権大会のパネルに囲まれた 懐かしいのにチクリと痛む胸 「なぁ茜、部屋のパネルなんで外したんだよ。ソフトボール辞めたって思い出は思い出だろ?」 「そうだけど・・・ ソフトしか知らなかった私が 一日数分程度の軽いキャッチボールしか出来ないって言われたの」 「そんなに悪いのか・・・肘」 そう言って私の肘を持つ 「痛みは辞めたら消えるって でもソフトではもう使えない」 肘を見ながら涙が溢れた 「わっ、悪かったよ もう言わないから泣くな」 コンコン「入るわよ〜」 最悪なタイミングで お茶を持って入ってきたおばさんは 泣いてる私と私の肘を持つ京介を見て 「京介!なに茜ちゃん泣かしてんのよ!」 凄い剣幕で怒り始めた 私が一生懸命説明し勘違いと分かると ペロッと舌を出し 「もう来ないから、ごゆっくり~」 笑って部屋を出て行った 「ったくお袋は・・・ 全面的に茜の味方だよな」 悔しそうにポツリと呟いた 「なぁ茜」 頭の上から聞こえた声に京介を見上げると 首を傾けた京介の顔が近づいてくる 瞬時に固まる私は瞬きすらできなくて 「茜。目閉じろ」 聞こえてきた少し掠れた京介の声に目を閉じれば 顎を持ち上げられ ゆっくり京介の唇が重なった
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